異動にあたってのメッセージ by 吉武

 2017年より当研究室で助教として勤務して参りました吉武です。私は4月から他の大学に講師として異動します。当研究室の在校生向けのメッセージを残したいと思い、ここに執筆させていただきました。
 私が当研究室に来たのは7年前で、その前に6年半ほど企業にいましたが、そろそろ大学で働いた時間のほうが長くなってきました。この研究室では新しいNGSのライブラリー調整手法であるHaCeD-Seqや精子を使った連鎖解析手法といったウェットの部分から、メタゲノム・eDNAデータベースであるMetaSearch、MitoSearchといったデータベースを開発したり、また私が行っている解析をビギナーの方でも簡単かつ高速に再現できるようにまとめたツールとしてPortable Pipelineの開発をするなど、一研究者としてとても充実した研究生活を送ることが出来たと思います。このような環境を築き上げてくださった浅川先生、木下先生には大変感謝しております。
 また話は変わって私事ですが、先週末に末っ子の卒園式がありました。思えば、こちらに来てすぐに生まれた末っ子が今年卒園なのだなと感慨深くなりました。これからも子供たちは大きくなってどんどん手がかからなくなってしまうのだろうと、親としては嬉しくも寂しい気持ちです。そうはいっても皆さんを見ていると、大学生になってもまだ先生や親に甘えてくれる子たちも多いのだろうなと謎の安心感はあります。
 さて、去りゆくものとして普段言いづらいことを一つ言わせてください。皆さんは何のために研究室に来るのでしょうか?私が大学院生時代のときは、大発明をして後世に残る仕事をしたい、もっというなら不老不死につながる研究をやりたいと思い、千葉県にある東大柏の葉キャンパスの理学部系のラボを探して、、後ほど思えば騙されて進みました。プレゼンの上手な教授だったんですよね。で、不老不死研究をしたいというモチベーションの学生が全国から何人か同じラボに集まることとなり…まぁ、その人たちは色々とまともではない人たちだったので、教授もその方向では人を集めなくなりましたが、、、それでも朝から晩まで、日曜日も半分くらいの人は研究に明け暮れていました。本当にやり遂げたい研究があるならこれくらい研究に時間を使うのは普通で、そのくらい打ち込んでもまだまだ足りないことが分かるのだと思います。これは別に研究だけの話ではなくて私は企業の開発職をやっていたりもしましたが、どんな分野でも優秀な人たちは才能があるうえで仕事に長時間費やしているのが普通だと思います。
 このラボの方針として、研究以外で大事なことも尊重するという非常におおらかな方針がありますし、また近年叱ることに対するペナルティの高まりから皆さんは研究室でほぼ注意されることはないと思います。このぬるま湯的環境でこそ力を発揮できる人、救われている人も一定数いるだろうと思う一方、本来引き出せたポテンシャルをほとんど引き出すことのないまま卒業してしまう学生さんが多いだろうと残念に思っています。本当に研究以外に大事なことがある人はそれに打ち込むのも良いと思いますが、大学院にまで来ているにも関わらず、みんな研究室に毎日来ていないからたまにしか行かないで良いと思っている学生こそ、今一度自分はこれから何を仕事にして生きていくのかを考えてみてほしいと思います。研究をするということは、自然と向き合うことになると思います。最初は思った通りに行かないと思いますが、そのうち自然とはというと大げさですが、この酵素はこうなんだとか、この細胞はこうなんだとかが分かってきて、立てた仮説が上手く実験結果を説明できるようになり、そのうち結果を予言することができるようになってくると思います。
 特に当研究室では、実験をするための十分な機器、高度な解析をするための計算サーバ、すばらしいスタッフが揃っています。ぜひこの環境を上手く活用して皆さんのポテンシャルを引き出してもらえたらと思います。もっと俗っぽく言えば、超優良企業でも朝9時から夜5時の8時間は働くことになりますので、その時間はラボに来て実験や解析、論文調査などなど、正解のわからない未解決問題を解いたり、新しい手法を開発してみるといったことを通して自然と向き合ってみると良いのではと思います。

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